安定狭心症・急性冠症候群
安定狭心症とは
安定狭心症の主な原因は「動脈硬化」です。動脈硬化とは、血管の壁が厚く硬くなり、弾力性が失われる状態を指します。冠動脈の壁にコレステロールなどが粥(かゆ)のようにたまって「プラーク(粥腫)」と呼ばれる隆起を形成し、これが徐々に大きくなることで血管の内腔が狭くなっていきます(図1)。
運動したり、重い物を持ったり、精神的に興奮したりすると、心臓はより多くの酸素と栄養を必要とします。しかし、冠動脈の内腔がプラークによって狭くなっていると、需要に見合うだけの血液を心筋に送り届けることができません。その結果、心筋が一時的に酸素不足(虚血)に陥り、胸の痛みや圧迫感などの症状が現れます。これが安定狭心症です。安定狭心症の症状は、主に体を動かしたとき(労作時)に現れるのが特徴です。
- 労作との関連: 階段を昇る、重い物を持つ、坂道を歩く、急いで行動する、精神的に興奮するなど、心臓に負担がかかる状況で胸の症状が出やすくなります。
- 症状の性質:
- 胸の真ん中あたりが締め付けられる感じ
- 胸が押さえつけられるような圧迫感
- 胸が重苦しい感じ
- 時には、みぞおち、喉、奥歯、左肩、左腕の内側などに痛みが広がる(放散痛)こともあります。
- 持続時間: 通常、症状は数分から長くても15分程度で、原因となった労作を中断して安静にすると、症状は次第に和らぎます。
診断方法
- 負荷心電図検査: 運動(トレッドミルや自転車エルゴメーター)や薬物(ドブタミンなど)で心臓に負荷をかけながら心電図を記録し、心筋虚血の誘発の有無を調べます 。
- 冠動脈CT: 造影剤を使用して冠動脈の形態を立体的に撮影し、狭窄の有無や程度、石灰化の状況などを評価します。
- 心筋シンチグラフィ: 放射性同位元素を注射し、心筋への血流分布を画像化します。負荷時と安静時を比較することで、虚血の範囲や程度を評価します 。
- 心臓MRI: 心臓の形態や機能、心筋の性状(瘢痕や浮腫など)を詳細に評価できます。負荷心筋パーフュージョンMRIで虚血を評価することもあります 。
- 心臓カテーテル検査: 手首や足の付け根の動脈から細い管(カテーテル)を冠動脈まで挿入し、造影剤を注入してX線撮影することで、冠動脈の狭窄部位や程度を直接確認します。非侵襲的検査で虚血が強く疑われる場合や、症状が重い場合、高リスクと判断される場合などに行われます 。
治療
まず生活習慣の改善と薬物療法が基本となります。これらで症状が十分にコントロールできない場合や、将来的に心筋梗塞などを起こすリスクが高いと判断される場合に、カテーテル治療やバイパス手術といった血行再建術が検討されます 。
急性冠症候群とは
急性冠症候群は、冠動脈のプラークが突然破れ、そこに急激に血の塊(血栓)が形成され、冠動脈が完全に詰まったり、著しく狭くなったりすることで、心筋が危険な状態に陥る病態の総称です(図2) 。これには、不安定狭心症、心筋梗塞があります。
急性冠症候群は、命に関わる緊急性の高い状態です。以下のような症状が現れた場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。
- 突然発症する強い胸痛・胸部圧迫感: これまでに経験したことのないような、突然の激しい胸の痛みや焼けつくような感じ、息が詰まるような圧迫感が特徴です。安静にしていても症状は治まりません 。
- 持続時間: 症状が20分以上、時には数時間にわたって続くことがあります。
- 随伴症状:
- 冷や汗が出る
- 吐き気や嘔吐
- 呼吸が苦しい、息切れ
- めまい、気が遠くなる感じ、失神
- 痛みが肩、背中、首、顎、左腕などに広がる(放散痛)
- 非典型的な症状に注意: 特に高齢の方や糖尿病の患者さんでは、典型的な胸痛ではなく、「何となく気分が悪い」「胃が痛い」「息苦しい」「ひどくだるい」「意識がもうろうとする」といった症状が前面に出ることがあります。これらの「いつもと違う」「我慢できない」症状も心筋梗塞のサインである可能性があるため、注意が必要です 。
急性冠症候群(不安定狭心症や心筋梗塞)は、時間との戦いです。治療の最大の目標は、詰まったり狭くなったりした冠動脈の血流をできるだけ早く再開させ、心筋の壊死(えし)を最小限に食い止め、命を救い、心臓のポンプ機能の低下を防ぐことです 。緊急のカテーテル治療が中心となります。
予防方法は
安定狭心症の方は、動脈硬化を進行させないこと、急性冠症候群を経験した方は、再発を防ぐこと、そのためには、生活習慣の改善と薬物療法を継続することが、鍵となります 。高血圧、糖尿病、脂質異常症など、動脈硬化に関わる病気の治療に関しては、その方の年齢や病態に応じた目標値の設定や、薬の選択が必要になり、相談しながらすすめていきます。ここでは生活習慣の改善に関してお話します。
禁煙のすすめ
喫煙は、冠動脈疾患の最大の危険因子の一つであり、再発リスクも高めます。禁煙は、二次予防において最も効果的かつ重要な取り組みです 。禁煙することで、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクが大幅に低下することがわかっています。
食事療法のポイント
毎日の食事は、血管の健康に直接影響します。以下の点に注意し、バランスの取れた食事を心がけましょう 。
- 塩分を控える: 高血圧の予防・改善のため、食塩摂取量は1日6g未満を目指しましょう 。加工食品や外食には塩分が多く含まれていることが多いので注意が必要です。
- 脂肪の質と量に注意する: 肉の脂身やバターなどに多く含まれる飽和脂肪酸や、マーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸の摂取を控えましょう。魚(特に青魚)や植物油に含まれる不飽和脂肪酸は適度に摂ることが推奨されます 。
- コレステロールを摂り過ぎない: 特に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値が高い方は、卵黄やレバー、魚卵などのコレステロールを多く含む食品の摂取を1日200mg未満に抑えることが望ましいです 。
- 食物繊維を積極的に摂る: 野菜、果物、海藻、きのこ類、未精製の穀物(玄米、麦飯など)には食物繊維が豊富に含まれており、コレステロールの吸収を抑えたり、血糖値の急上昇を防いだりする効果があります。1日25g以上の摂取が推奨されます 。
- バランスの取れた食事: 主食(ごはん、パン、麺類)、主菜(魚、肉、卵、大豆製品)、副菜(野菜、きのこ、海藻類)をそろえ、多様な食品をバランスよく食べることが基本です。
- アルコールは適量に: 飲みすぎは心臓に負担をかけます。飲む場合は、純アルコール換算で1日25g以下、具体的にはビールなら中瓶1本、日本酒なら1合程度を目安にしましょう。
運動療法のすすめ
適度な運動は、血圧や血糖値、脂質値を改善し、体重コントロールにも役立ち、心臓の機能を高める効果があります 。
また多くの研究が、運動療法によって心筋梗塞の再発や、カテーテル治療やバイパス手術といった追加の治療が必要になる可能性、そして再入院のリスクが明らかに低下することを示しています 。例えば、複数の研究結果をまとめた解析によると、運動を中心とした心臓リハビリテーションに参加することで、心血管死亡率は26%、心筋梗塞の発生リスクは約18%低下するという報告があります 1)。
ご自宅でできる具体的な運動メニューについてお話しします。毎日の生活の中に少しずつ運動を取り入れていくことから始めましょう。
有酸素運動
有酸素運動は、酸素を十分に取り込みながら行う、リズミカルで持続的な運動です。心肺機能を高め、血行を促進し、心臓病の再発予防に非常に効果的です。ウォーキングやエアロバイクなどがあります。「ややきつい」と感じる程度、 運動中に「ハアハア」と息は弾むものの、隣の人と何とか会話ができる程度、または歌を歌うのは難しいけれど、短い返事ならできる程度が目安です 。最初は1回10分~15分程度の短い時間から始め、徐々に時間を延ばしていきましょう。最終的には、1回20分~60分を目標に、週に3~5日行うのが理想的です。
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)
筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、血液循環を助けるポンプの役割も果たしています。筋力をつけることで、日常生活の動作が楽になり、疲れにくくなります。また、基礎代謝が上がり、血糖値のコントロールや体重管理にも役立ちます。転倒予防にも繋がります 。
椅子からの立ち座り、かかとあげなど(図3)各種目を8~12回繰り返し、これを1セットとします。最初は1セットから始め、慣れてきたら2~3セットに増やしていきましょう。頻度としては 週に2~3日、有酸素運動を行わない日や、有酸素運動の後などに行うと良いでしょう。
冠動脈疾患と上手に付き合っていくために
病気を正しく理解し、医師や医療スタッフと協力しながら、前向きに治療や予防に取り組むことで、症状をコントロールし、発作や再発のリスクを減らし、以前と変わらない質の高い生活を送ることは十分に可能です。ご自身の体と向き合い、できることから一つひとつ継続しきましょう。
Dibben GO, et al. European Heart Journal. 2023;44(6):452-469.
出展:「2018 年急性冠症候群ガイドライン」、「2022 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療」等を参考に作成。
