慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは?
主に長年の喫煙習慣が原因で、空気の通り道である気管支が狭くなったり、酸素を取り込む肺胞が壊れたりして、息を吐き出しにくくなり、動いた時の苦しさや、慢性的な咳・痰などの症状を認める病気です。
私たちの肺は、空気の通り道である「気管支」と、その先にあるブドウの房のような小さな袋「肺胞」から成り立っています。肺胞は非常に弾力性に富んでおり、息を吸うと風船のように膨らみ、息を吐くと自然にしぼんで空気を押し出します。
COPDになると、この肺の仕組みが損なわれてしまいます。
COPDの原因
主な原因:タバコの煙
日本においては、依然として長期間の喫煙がCOPDの最大の危険因子です 。喫煙者の約20%がCOPDを発症すると言われています 。重要なのは、自分自身が吸う「能動喫煙」だけでなく、他人のタバコの煙を吸い込む「受動喫煙」も、COPDの確かな危険因子であるということです 。
喫煙以外の原因
- 大気汚染: PM2.5や自動車の排気ガスなどに長期間さらされることは、肺に慢性的な炎症を引き起こし、COPDの原因となります。
- 職業性の粉塵や化学物質: 建設現場、鉱山、工場などで発生する粉塵や化学物質、煙などを長期間吸い込むことも、COPD発症のリスクを高めます。
- 小児期の要因: 子どもの頃の繰り返す呼吸器感染症や、胎児期・乳幼児期の母親の喫煙や受動喫煙などにより、肺が十分に成長しきれなかった場合、成人後にCOPDを発症しやすくなることが分かっています。
- 遺伝的な要因
COPDの症状
典型的な症状は、以下の3つです。
- 労作時呼吸困難(体を動かしたときの息切れ): 最初は階段や坂道を上るときだけだった息切れが、徐々に平地を歩くだけでも感じるようになります。「年のせい」と片付けてしまいがちですが、同年代の人と比べて息切れが強い場合は注意が必要です 。
- 慢性の咳: 長期間続く咳です。特に朝方に多く、しばしば「喫煙者の咳」として見過ごされます 。
- 慢性の痰: ほぼ毎日、痰が絡む状態です 。
これらの症状に加えて、ゼーゼー、ヒューヒューという「喘鳴(ぜんめい)」や、国際的なガイドラインで特に重要な症状として挙げられている「疲労感」もCOPDのサインです 。
COPDの診断方法
COPDの診断を確定するために不可欠な検査が、「スパイロメトリー」と呼ばれる呼吸機能検査です。これは、あなたの肺活量や、息を吐き出す力の強さ(速さ)を調べる検査です。方法はとてもシンプルです。まず、鼻をクリップでつまみ、マウスピースをくわえます。そして、看護師の合図に合わせて、「思いきり息を吸い込み、そこから一気に、できるだけ速く、最後まで息を吐き切る」という動作を行います。この「努力して吐き出した息」の量と速さを機械が測定します。
健康な肺は、弾力性があるため、最初の1秒でほとんどの空気を素早く吐き出すことができます。しかし、COPDの肺は弾力性を失い、気道が狭くなっているため、息を吐き出すのに時間がかかります。
COPDの治療
治療の目標は大きく2つに分けられます 。
- 現在の症状を和らげる: 息切れを軽くし、運動能力を高め、生活の質を改善する。
- 将来のリスクを減らす: 増悪を防ぎ、病気の進行を抑え、健康寿命を延ばす。
治療の土台となる非薬物療法
禁煙
最も重要な治療です。 多くの患者さんが「今さらやめても、もう手遅れだ」と感じてしまうかもしれません。しかし、その考えは間違いです。このグラフが伝えるメッセージは、「失われた肺機能を取り戻すことはできないが、禁煙したその日から、未来の肺機能の低下速度を遅らせることができる」ということです(図2)。
感染予防とワクチン接種
増悪の最大の引き金は呼吸器感染症です。したがって、感染症から身を守ることは、COPDの進行を防ぐ上で極めて重要です。ワクチン接種はあなたの肺を守る「盾」となります。インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンに加え、60歳以上の方はRSウイルスに対するワクチンも推奨されています。
運動療法
運動療法は、息切れを軽減し、運動能力(歩行距離など)を向上させ、QOLを改善する効果が科学的に証明されています。
栄養管理と食事療法
COPD患者さんは、安静にしていても呼吸に多くのエネルギーを消費するため、気づかないうちに体重が減少してしまうことがあります。特に、筋肉量が減ってしまう「サルコペニア」という状態に陥りやすいことが知られています。 適切な体重と筋力を維持するためには、バランスの取れた食事が不可欠です。タンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)や、エネルギー源となる炭水化物、脂質、そして体の調子を整えるビタミン、ミネラルを意識して摂りましょう。
薬物療法
薬物療法は、狭くなった気道を広げ、息切れなどの症状を和らげるための重要なツールです。COPDの薬は、主に吸入薬が用いられます。
COPDは、一度壊れた肺を元に戻すことができない、進行性の病気です。しかし、それは決して、希望がないということではありません。禁煙によって病気の進行を遅らせ、ワクチンで増悪を防ぎ、運動療法で体力をつけ、適切な薬で症状を和らげる。これらを組み合わせることで、COPDは十分に管理可能な病気となります。大切なのは、病気を正しく理解し、あなた自身が治療の主役となることです。
出展:日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会. (2022). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版、 Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. (2024). Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease (2025 Report) らを基に作成。
