胸痛
~命に関わる、緊急性の高い胸痛~
~その他胸痛の原因となる様々な病気~
心臓・血管の病気
肺・胸膜の病気
消化器の病気
骨・筋肉・神経の病気
心因性・ストレスによる胸痛
~病気の説明~
急性大動脈解離
心臓から全身へ血液を送り出す最も太い血管である大動脈の壁が、内側から裂けてしまう病気です。多くの場合、「突然発症」の「引き裂かれるような」激痛が胸や背中に起こります 。痛みが背中から腰へと移動していくのが特徴的なサインです 。高血圧の既往がある方に多く、左右の腕で血圧に大きな差が出ることがあります 。失神や意識障害、脳卒中のような麻痺症状で発症することもあり、極めて危険な状態です 。
肺塞栓症
足などの静脈にできた血の塊(血栓)が血流に乗って肺に流れ着き、肺動脈を詰まらせる病気です。「エコノミークラス症候群」としても知られています。突然発症する激しい呼吸困難や胸の痛みが特徴で、命に関わる緊急性の高い状態です 。
緊張性気胸
肺に穴が開き、漏れた空気が胸の中に溜まることで肺が押しつぶされ、さらに心臓や大きな血管まで圧迫してしまう状態です 。突然の胸痛と、急激に悪化する呼吸困難が特徴です 。やせ型で背の高い若い男性に起こりやすいとされていますが、誰にでも起こる可能性があります 。
食道破裂
強い嘔吐や、胃カメラなどの医療処置がきっかけで、食道の壁が破れてしまう病気です 。嘔吐の直後に、胸や背中に突然の激痛が生じます。食べ物や消化液が胸の中に漏れ出し、重篤な感染症を引き起こすため、緊急手術が必要です 。
- 安定狭心症
- 心膜炎・心筋炎 : 心臓を包む膜(心膜)や心臓の筋肉(心筋)に炎症が起こる病気です。風邪などのウイルス感染の後に発症することが多く、痛みは鋭い胸やけの様な痛みで、吸気や咳で強くなり、前かがみの姿勢になると和らぐ傾向があります 。
- 胸膜炎・肺炎・気管支炎 : 肺や、肺を覆う胸膜に細菌やウイルスが感染して炎症を起こします。深呼吸や咳をしたときに強くなる胸の痛みが特徴で、発熱、咳、痰(たん)などの呼吸器症状を伴います 。
- 気胸 : 前述の緊張性気胸ほど重篤ではないものの、肺に穴が開いて空気が漏れ、肺がしぼんでしまう状態です。突然の胸の痛みと息苦しさが主な症状です 。
- 逆流性食道炎 : 胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が起こる病気です。胸の中心部が焼けるような感じ(胸やけ)や、酸っぱいものが上がってくる感じ(呑酸)が主な症状ですが、心臓の病気とよく似た胸の痛みを感じることもあります 。痛みは食後や、横になったときに悪化しやすいのが特徴です 。
- 胃・十二指腸潰瘍 : みぞおちの痛みが主ですが、胸の下あたりに痛みとして感じられることもあります。食事との関連(空腹時に痛む、食後に痛むなど)が特徴です 。
- 胆石症・膵炎 : 胆のうや膵臓の病気でも、痛みが胸の方へ広がって感じられることがあります。特に脂っこい食事の後に、右の上腹部から胸、右の背中にかけての痛みが出た場合は胆石発作の可能性があります 。
- 帯状疱疹 : 水ぼうそうと同じウイルスが原因で起こります。体の片側の神経に沿って、ピリピリ、チクチクとした痛みがまず現れ、その数日後に赤い発疹と水ぶくれが出てくるのが典型的な経過です 。
- 肋骨骨折・肋軟骨炎 : 転倒などの外傷だけでなく、激しい咳を繰り返すことでも肋骨にひびが入ったり、骨折したりすることがあります 。また、肋骨とその間の軟骨の接合部に炎症が起こるのが肋軟骨炎です。どちらも、痛む場所を押すと強い痛み(圧痛)があり、深呼吸や咳、寝返りなどで痛みが強まります 。
- 筋肉痛 : 普段使わない胸の筋肉を使った後などに起こる、比較的鈍い痛みです。体を動かしたり、特定の姿勢をとったりすると痛みが再現されます 。
- 心臓神経症・パニック障害 : 心臓や肺などの検査をしても明らかな異常が見つからないにもかかわらず、胸の痛みや不快感を訴える状態です。ストレスや不安が引き金となることが多く、痛みは「チクチクする」軽いものであることが多いですが、時に動悸、息苦しさ、めまい、強い不安感を伴う発作(パニック発作)として現れることもあります 。痛む場所が毎回変わったり、数時間続いたりすることもあります 。これらの症状は身体的に異常がないからといって「気のせい」ではなく、ご本人にとっては非常につらいものです 。
~なぜ胸は痛むのか?痛みの3つのタイプ~
胸の痛みと一言でいっても、その感じ方は様々です。「締め付けられるような」「チクチクする」「引き裂かれるような」など、色々な表現があります。この痛みの性質の違いは、痛みがどこから、どのように発生しているかを知るための重要な手がかりとなります。胸痛は、主に3つのタイプに分類できます 。
胸の奥深くからくる鈍い痛み(内臓痛)
内臓痛は、心臓、食道、胃、大動脈といった胸の内部にある臓器そのものから発生する痛みです 。特徴は、痛みの場所を指で「ここが痛い」と正確に示すことが難しい、ぼんやりとした広範囲の痛みであることです 。感じ方としては、「締め付けられる」「圧迫される」「重苦しい」といった表現がよく使われます 。
このタイプの痛みは、臓器が伸びたり、強く収縮したり、血流が不足(虚血)したりすることで生じます 。例えば、心筋梗塞では心臓の筋肉への血流が途絶えることで、胸全体が圧迫されるような内臓痛が生じます。患者さんによっては、この痛みを「消化不良」や「胃の不快感」と勘違いしてしまうこともあり、注意が必要です 。
胸の表面に近い鋭い痛み(体性痛)
体性痛は、皮膚、筋肉、肋骨、そして肺を覆う膜(胸膜)など、体の表面に近い「体壁」から生じる痛みです 。内臓痛とは対照的に、痛みの場所を指一本で正確に示すことができるのが大きな特徴です 。痛み方は「チクチクする」「ズキンとする」「刺すような」鋭い痛みが典型的です 。
この痛みは、深呼吸、咳、くしゃみ、あるいは体をひねるなどの特定の動きによって強くなる傾向があります 。例えば、肋骨を骨折している場合や、肋間神経痛、胸膜炎などがこの体性痛を引き起こします。鋭くはっきりした痛みのため不安に感じやすいですが、内臓痛に比べて、必ずしも命に直結する危険性が高いわけではありません。
痛む場所と原因の場所が違う痛み(関連痛)
関連痛は、内臓の痛みが、その臓器とは全く別の場所(多くは皮膚や筋肉)で感じられる不思議な現象です 。これは、内臓からの痛みの信号を伝える神経と、皮膚からの痛みの信号を伝える神経が、脊髄の同じ高さで合流し、脳へと伝達されるために起こります。その結果、脳が信号の出どころを「勘違い」し、内臓の痛みを皮膚の痛みとして認識してしまうのです 。
最も有名な例が、狭心症や心筋梗塞の際に感じる左肩、左腕の内側、あるいは顎や歯の痛みです 。心臓そのものではなく、離れた場所に痛みを感じるため、心臓の問題だと気づきにくいことがあります。時に「肩こり」として自覚されることさえあります 。この関連痛の仕組みを理解することは、隠れた内臓の病気を見つける上で非常に重要です。
これらの痛みのタイプを理解することは、ご自身の症状を客観的に把握する助けになります。特に、「指一本でさせる鋭い痛み」よりも、「手のひら全体で押さえるような鈍い痛み」の方が、心臓や大動脈など、より深刻な病気のサインである可能性を念頭に置くことが大切です。
