脂質異常症
脂質異常症とは?なぜ治療が必要なのでしょうか?
脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪など)の値が基準値から外れた状態を指します。具体的には、「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が多すぎたり、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールが少なすぎたりする状態です。
これらの脂質は、私たちの体にとって必要不可欠なものですが、バランスが崩れると血管の壁に脂質がたまりやすくなります。これが「動脈硬化」と呼ばれる状態で、血管が硬く、狭くなり、血液の流れが悪くなってしまいます。
脂質異常症が引き起こす「動脈硬化性疾患」のリスク
動脈硬化が進行すると、心臓や脳などの重要な臓器への血流が滞り、命に関わる重大な病気を引き起こす可能性があります。これらを総称して「動脈硬化性疾患」と呼びます。
- 心臓の病気: 狭心症、心筋梗塞など
- 脳の病気: 脳梗塞、一過性脳虚血発作など
- その他の病気: 閉塞性動脈硬化症(足の血管が詰まる病気)など
脂質異常症は、これらの動脈硬化性疾患の最も重要な危険因子の一つです。特に、LDLコレステロール値が高い状態が続くと、動脈硬化が進行するリスクが高まります。
治療のメリット
脂質異常症の治療における最大の目的は、将来起こりうる心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患の発症や再発を予防し、それによって健康寿命を延ばし、生活の質(QOL)を維持・向上させることです 。単に血液検査の数値を正常範囲に戻すことだけがゴールではありません。また LDLコレステロールは、高い値が続くことで動脈硬化性疾患のリスクが上昇する可能性があり(図1)、早い段階から治療を開始することの重要性も指摘されております。
図1 DLコレステロールレベルと心血管イベント生涯リスクの比較
※ある1年間の平均LDL-C値が120mg/dLだった場合、その1年間の曝露量は「120mg/dL × 1年」となり、「10年で1200mg/dl・年」になります。
Ference, B. A,et al. Nature Reviews Cardiology, 21(10), 701–716. Figure 3c のデータに基づき作成。
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このグラフは、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)のレベルが「平均より50%高い(例:家族性高コレステロール血症など※)」、「平均的」、「平均より25%低い」、「平均より50%低い」というグループごとに、年齢と生涯の心血管イベントリスク(左軸・実線)の関係を示しています。右軸にはLDLコレステロールの生涯にわたる総量(累積曝露量)の目安となる目盛りが表示されています。
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生涯を通じてLDL-Cレベルを平均より25%低く(おおよそ97-104 mg/dL程度)維持できた場合、心血管イベントの発症が約12.5年遅延し、生涯リスクは半分以下に低減されると推定されます。さらに、LDL-Cレベルを平均より50%低く(おおよそ60-70 mg/dL程度)維持できた場合には、イベント発症が約25年遅延し、生涯リスクは極めて低くなると予測されています 。
リスクに応じた脂質管理目標値
治療の具体的な目標となる脂質の値(管理目標値)は、患者さん一人ひとりが抱える動脈硬化のリスクの高さによって異なります。
また脂質異常症の治療や管理において、「一次予防」と「二次予防」という考え方が重要になります。
- 一次予防: まだ動脈硬化性疾患を発症していない方が、将来の発症を防ぐために行う予防のことです。健康診断などで脂質異常症を指摘された方の多くは、この一次予防が目標となります。生活習慣の改善や、必要に応じた薬物療法が含まれます。
- 二次予防: すでに狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの動脈硬化性疾患を発症した方が、再発や悪化を防ぐために行う予防のことです。二次予防では、より厳格な脂質管理目標が設定され、多くの場合、薬物療法が必須となります。
ご自身がどちらの段階にあるのかを理解し、適切な対策を講じることが大切です。
脂質異常症の治療方法
脂質異常症の治療は、主に「生活習慣の改善」と「薬物療法」の2つの柱で行われます。
1. 生活習慣の改善
生活習慣の改善は、脂質異常症治療の基本であり、最も重要なステップです。
食事療法
- 飽和脂肪酸の摂取を控える: 肉の脂身、バター、生クリームなどに多く含まれます。
- トランス脂肪酸の摂取を控える: マーガリン、ショートニング、スナック菓子、揚げ物などに含まれることがあります。
- コレステロールの摂取を制限する: 卵黄、レバー、魚卵などに多く含まれます。ただし、極端な制限は必要なく、バランスが重要です。
- 食物繊維を積極的に摂取する: 野菜、果物、きのこ類、海藻類、豆類、全粒穀物などに多く含まれ、コレステロールの吸収を抑える働きがあります。
- n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA、DHA)を摂取する: 青魚(サバ、イワシ、サンマなど)に多く含まれ、中性脂肪を下げる効果、血液をサラサラにする効果が期待できます。
- 適切なカロリー摂取を心がけ、肥満を防ぐ・解消する。
- アルコールの過剰摂取を控える。
運動療法
- 有酸素運動が効果的です: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどを、1回30分以上、週に3回以上行うことが推奨されます。
- 継続することが大切です。 無理のない範囲で、楽しみながら続けられる運動を見つけましょう。
禁煙
- 喫煙はHDL(善玉)コレステロールを減らし、LDL(悪玉)コレステロールを酸化させやすくするなど、動脈硬化を著しく促進します。禁煙は必須です。
その他
- 適切な体重の維持
- 十分な睡眠と休養
生活習慣の改善は、医師や管理栄養士の指導を受けながら、無理なく継続していくことが大切です。
2. 薬物療法
生活習慣の改善だけでは脂質管理目標を達成できない場合や、もともと動脈硬化のリスクが高い場合には、薬物療法が検討されます。薬物療法は、医師が患者さん一人ひとりの状態やリスク、他の病気や服用中の薬などを考慮して、最適な薬剤を選択します。
薬物療法を開始した後も、定期的な血液検査で効果や副作用を確認しながら、必要に応じて薬の種類や量を調整していきます。自己判断で薬を中断したり、量を減らしたりすることは避けてください。
脂質異常症は、自覚症状がないまま進行することが多い病気です。そのため、定期的な健康診断や血液検査を受け、ご自身の脂質の状態を把握しておくことが大切です。
もし脂質異常症と診断された場合は、自己判断せず、医師に相談してください。医師は、患者さん一人ひとりの状態やリスクを総合的に評価し、最適な治療方針を提案します。
何かご不明な点やご不安なことがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
※家族性高コレステロール血症(FH)とは?
FHは、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を肝臓に取り込むための「LDL受容体」や、それに関連する遺伝子の異常によって、生まれつき血液中のLDLコレステロール値が著しく高くなる遺伝性の病気です 。LDLコレステロールを体内で適切に処理する能力が低下しているため、幼い頃から血液中のLDLコレステロールが高い状態が持続し、その結果、動脈硬化が非常に早い時期から急速に進行します。そのため、FHの患者さんは、若年で心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患を発症するリスクが、一般の人に比べて高いことが特徴です 。
FHは、多くの場合、「常染色体優性遺伝」という形式で遺伝します。これは、両親のどちらかがFHであれば、その子どもには約50%の確率で遺伝することを意味します。FHは決して稀な病気ではなく、日本人の一般人口における有病率は、約300人に1人程度と推定されている 。
FHを疑うサイン 以下のような特徴が見られる場合、FHの可能性を疑う必要があります。
- 未治療時のLDLコレステロール値が著しく高い: 成人(15歳以上)では、治療を開始する前のLDLコレステロール値が180mg/dL以上であることが診断基準の一つです 。
- 腱黄色腫(けんおうしょくしゅ): コレステロールが沈着してできる黄色い隆起で、アキレス腱、肘や膝の関節の伸側、手の甲などに見られます。特にアキレス腱が太く硬くなる(アキレス腱肥厚)のはFHに特徴的な所見です 。
- 皮膚結節性黄色腫(ひふけっせつせいおうしょくしゅ): 皮膚、特に肘や膝、臀部などにできる黄色いしこり状のものです 。
- 早発性冠動脈疾患の家族歴: 血縁者(親、兄弟姉妹、子など第一度近親者)に、FHと診断された方や、若くして(男性55歳未満、女性65歳未満)心筋梗塞や狭心症を発症した方がいる場合 。
FHの診断 FHの診断は、日本動脈硬化学会が作成した診断基準(「成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022」などに基づく)に基づいて行われます。主に、①未治療時のLDLコレステロール値、②腱黄色腫(アキレス腱肥厚を含む)または皮膚結節性黄色腫の有無、③FHまたは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者)の3項目のうち、2項目以上を満たす場合にFHと診断されます 。アキレス腱肥厚の評価にはX線撮影や超音波検査が用いられます。診断が難しい場合や、確定診断のためには、原因遺伝子(LDL受容体遺伝子、アポB遺伝子、PCSK9遺伝子など)の変異を調べる遺伝学的検査が行われることもあります 。
